Danse Macabre 『死の舞踏』

 16歳のルルは、父の計らいでアグスブルクのSt.カーライル大学へ留学することとなり、四年前に発った兄レクターを頼りにニクロスの屋敷を後にする。期待と不安の入り混じる胸中、波立つ心を支えるのは何よりも家族の愛情であったが、生来根を張る孤独感との渾融がルルの安息になお影を落とす。二律背反、自問自答、青春の途上にあって止まざる内観。幻想世界を舞台に少女の切愛を描く心理小説。

  ――矛盾や背反を秩序付け、混成を滑らかに保つ人間の心の不思議が、ルルの成長に映し出される。

★ Font size "M" / Screen "800×600"〜 ★ 
※当作品は漢字/平仮名の表記が各話においてしか統一できておりませんで、通読の際には違和感も生じようかと思います。ご了解の程何卒よろしくお願い申し上げます。(07.5.1)



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【掌編】--------------------------------------------------------

 「春宵の夢(改稿版/完結済)」 ※死の舞踏(1)以前のお話になります

 「天金の鴎鳥」 ※本編に直接関係しないお話になります

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(1)来し方行く末

INTRO 《閉ざされた環境にあって私は限りなく孤独だったけれど、その感情に厭世的な悲しみを見出すことはついぞ無かった。私は知識を想像の世界で魅力的に彩ることができたし、様々な物語が内省的処理のもと、あたかも実体験のように私の記憶に留められていた――》

(2)祝福を受けて

INTRO 《門出の日は兄様のときに負けないくらいうららかな日よりだった。私は大きな革製のトランクに、およそ最低限とは言い難い荷物(私も一応女の子だからいろいろある)を積めこんで、いざ出発せん、玄関ホールに立っている――》

(3)軌跡へ願う

INTRO 《互いの視線も判別つかないほど、遠く離れて豆粒ほどになっても、私はお父様の姿をいつまでも見つめていた。ついには屋敷も見えなくなり、だけど、それでもまだ、私は屋敷の方を向いたまま硬直していた。お父様とイブリンがすぐそこに立っているような気がしてしまう――》

(4)悪夢

INTRO 《控えめなランプが人気の無いロビーを仄かに照らしている。暖炉の火は消えていた。ホテルは思いのほか清潔で、テーブルに掛けられた臙脂のクロースにはしわ一つ無いように見えた。天井近くの小さな窓からは、心もとない光の筋がどこか寂しげに指し込んでいる――》

(5)森の小鬼

INTRO 《「実際問題、北部訛りは商談のときになめられるんですよ。わたすら(私たち)の世界は上っ面だって大切なんです。中身があっても田舎者は出世できない。嫌になりますよ。わたす(私)は出身を聞かれたらアグスブルクと答えるように決めています。商人はアグスブルク出身ばっかりです――》

(6)幸齎す紅い槍

INTRO 《『ふと省みる。四年間。無自覚な鬱気と葛藤にさいなまれ、頭のなかのがらくたとひたすらに格闘していた。いつ終わるとも知れない綺想曲。激動期と言っても決して大げさではなかった。脱皮した蝶はその抜け殻にいかな感慨を抱くだろう?』》

(7)全き家族

INTRO 《横にカットしたスコーンにクロテッドクリームをこってりと塗りつける。その上にはクランベリージャム。濃厚なスプレッドが素朴なドライケーキの美味しさを際立たせる。昼下がりのお茶は私にとって至福の時だった。すっきりとした紅茶の味わいと、焼き菓子の仄かな甘みに思わず頬が緩む――》

(8)気が付けば被害者

INTRO 《先生がテーブルに残したチップはペイン銅貨たったの一枚きりだった。私は何かの冗談かと思って、にこにこしながら待っていたのだけれど、先生はきょとんとした面持ちで私を見つめ返してくる――》

(9)ブライアン・ダーク

INTRO 《敷き詰められた板石は、どれもこれもかたちが不均等で隙間だらけ、表面もごつごつと荒削りで、歩くだけならまだしも、いざ走るとなるとなかなかに難儀なものだった。板石と板石の溝に踵が挟まってしまったり、履きなれないパンプスによろめきながら、たった100フィート足らずの距離が2倍にも3倍にも感じられる――》

(10)悲しくて

INTRO 《私がこうやって目を背けずにいられるのは、ひとえに先生の剣の技術を信用しているからであって、現に、先生はブライアンをほとんど圧倒していると言えた。先生は彼をまったく傷つけることなく、それでいて優勢を保ち続けている――》

(11)好奇心の裏切り

INTRO 《『ルル。いいかい。"悲しむ"ということはね、一面においては、すごくわがままなことでもあるんだ。もちろん、心が傷むのはとめようのないことかもしれない。でもね、いろいろな考え方を身につければ、沸き起こる感情はより適切な、より正確なものになる――》

(12)ある男の復讐

INTRO 《楽団の奏でる、長い、私の知らない陽気な曲が、ろうそくの火を消すみたいに、ふっと、終わりを迎えた。先生の説得がはじまってから、どのくらい経ったろう。私は俯いて、ただひらすらだんまりを決め込んでいた――》

(13)泣いてはならない

INTRO 《暗灰色の厭夢を忘却へと追いやらん、切り裂くような暁光がカーテンの隙間から枕もとにまで伸びていた。半醒半睡のなか、体は眠り薬と幽冥とを求め、心は起床喇叭の音を聴きたがっていた。薄目を開ける。暗闇を分断する一筋の光は神聖そのもので、私はぼうっと溶け消える夢の欠片を見つめていた――》

(14)先生

INTRO 《鋭い日差しだった。時折の涼風に冬の名残を感じることはあったけれど、それでも石畳の反射する春色は、凛冽のヴァレイホープに訪れようとしている、あの切ないくらいに短い夏さえも予感させるのだった――》

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(15)護衛との和解

INTRO 《車内にずらりと立ち並ぶ椅子の背を頼りに、もつれる足でよろめき歩く。揺れが激しい。御者は出発が遅れたことに苛立っているようだ。私たちの身勝手な名残をゆるしてくれたことに感謝の気持ちはあるけれど、ゴツゴツとした手加減のない振動のひとつひとつが、私のぬかるんだ心のひだを"あえて"痛めつけようとしているかのように感じられて、どうしてもつらい涙が止まらない――》

(16)こころの暗渠

INTRO 《窓から差し込む白く厳しい斜光から逃れるため、奥の座席に腰を下ろす。いつものように早朝の出発を予定していたのだけれど、ブライアン・ダーク――いや、もう彼のことをそんなふうな、交流しえない記号のようにとらえるべきではないだろう、これからは"ダークさん"だ――がひどい宿酔に起き上がることかなわず、本日はやむをえず正午の鐘を聴きながら馬車に乗り込むことになった――》

(17)強い言葉

INTRO 《喬木群に遮られた日差しが、枝葉の微細な隙間から不規則な輝耀をちらちら投げかけている。私は飛沫のような光の玉をうつろに把握しながら、肌を焼かれない薄暗がりにすっぽりおさまって、安気のうちに曖昧な眠りを眠っていた(あるいは、まぶたに狭く限られた視界のなかで曖昧に起きていた)》

(18)いいことがありますように

INTRO 《老いた椅子だった。座面には臙脂色に照る中綿入りの別珍が打ち付けられ ていたが、木肌が乾きひび割れるに至ったのと同じ年月を生きてきただろうそれは、ところどころに痣のような痛々しい黒ずみを帯び、しかも周縁に打ち込まれた鋲から線状の破れ目が伸びていて、灰色に汚れた内部をちろちろ覗かせている――》

(19)死の舞踏

INTRO 《原野の広がりは、まばらな潅木が指標となって示していた。ニクロス‐アグスブルク間の中程に位置するウエストイールド、その起点となるレンデルト丘陵を貫く皇道には、蘚苔類をまとわり付かせて幹肌をまだらな濃緑に彩ったオーク属の樹木が凛々と整列しており、車窓の眺めを長く遮っていたのだけれど――》

(20)ヴィオラ・ホロヴィッツ

INTRO 《隣り合った私とコルクが同時に振り向くと、ダークさんは顔を背けてぷっと吹きだした。
 ――呼ばれたから振り向いたのに!
 ――吹きだすなんて失礼じゃない? という私の反射的な情動を代弁するかのように、コルクは二度つづけざまに鋭い吠え声をあげた。》

(21)父の教え

INTRO 《蔭の濃い朝月夜に目が覚めた。不幸な凍死体のように貧しく身を縮めていた。ひどく物悲しい気持ちだった。夢に舫われたある感情の波紋が、連関する諸要素から独立した新しい浪となって、行きどころのない奇妙な喪失感をたなびかせる。つらい寝覚めだった――》

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